2021年末 CPUワットパフォーマンス簡易調査

まえがき

2021年11月4日に、Intelの12世代Coreシリーズが発売された。 これにより、近年はAMDRyzenシリーズが優位になっていたマルチスレッド性能においても、処理の種類によればCoreシリーズが上回るということで話題になっている。

一方で、12世代Coreシリーズの最上位であるCore i9-12900Kの最大消費電力は基本的に241Wに設定されており、これは対抗のRyzen 9 5950Xシリーズの142Wに比べて100Wほど大きい設定になっている。 このため、発熱も多くなり、「爆熱」や「電力大食いでワットパフォーマンスは悪い」などの評判が出回っている。

しかし、CPUの性能は消費電力の設定値によって変動するものである。 最近のデスクトップ向けCPUは省電力性より性能を優先している。 このため、ワットパフォーマンスが最良の設定に比べてかなり高めの電力設定が行われており、デフォルト設定でのワットパフォーマンスはワットパフォーマンスの評価に適さない。

そこで、この記事では主にCore i9-12900KとRyzen 9 5950Xに注目して、CPUの最大消費電力を制限しつつベンチマークを行うことで、電力設定ごとのベンチマークスコアを比較する。

ベンチマークの内容

今回は、ベンチマークとしてCINEBENCH R23のMulti Coreを採用した。 安定して高負荷をかけた後の動作を見るために、ベンチマークの時間は10分間を採用している。 この設定は、AKIBA PC Hotline!の記事『超低消費電力CPUにもなる?「Core i9-12900K」をリミット調整で美味しく使う!』と合わせたものである。

今回、データを取得したCPUは以下の4種である。

このうち、Core i9-12900K・Ryzen 9 5950X・Ryzen 9 3900Xの3種については、自作デスクトップPC環境のものである。 Core i9-12900KとRyzen 9 5950Xについては、知人からベンチマーク結果の提供を受けた。 この場で感謝の意を表明させていただく。

Core i5-1135G7はインテル NUC 11 パフォーマンス・キット - NUC11PAKi5搭載のものである。 冷却性能が低くCPUが高温になりがちなので、BIOS設定でファンの速度を常時100%に設定した。

測定状況は以下の通りである。

CPUモデル メモリ 冷却環境 測定時室温 OS
Core i9-12900K DDR4-3200 (CL22-22-22-52) 360mm簡易水冷 22℃ Windows 11
Ryzen 9 5950X DDR4-3200 (CL22-22-22-52) 360mm簡易水冷 16℃ Windows 11
Ryzen 9 3900X DDR4-3200 (CL22-22-22-52) 360mm簡易水冷 26℃ Windows 10
Core i5-1135G7 DDR4-2666 (CL19-19-19-43) 内蔵ファン(100%固定) 19℃ Windows 10

今回は、CPUの電力設定を指定し、クロック制御は自動制御するようにして測定した。 設定方法は以下の通りである。

  • Core iはPL1=PL2=設定値
  • RyzenはPPT=設定値

これにより、CPUは可能な限り設定値に消費電力を一致させるように制御が行われ、その電力で出せる限界に近い性能を発揮することが期待される。

ベンチマーク結果

ベンチマーク結果は以下のグラフの通りである。 グラフ内のi9-12900Kのうち、(A)は上記のAKIBA PC Hotline!の記事のものであり、(B)は知人から提供を受けたベンチマーク結果である。

  • X印は設定値まで消費電力が達しないため、消費電力を基準にプロットした点
  • 曲線はRの smooth.spline によるスプライン曲線

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電力上限設定に対する各CPUのCinebench R23 Multi Core スコア

以上のグラフから、以下のことがわかる。

i9-12900Kと5950Xは90W~200Wにおいてはほぼ互角

Core i9-12900KとRyzen 9 5950X共に、90W~200Wの電力帯では、スコアの分布はほとんど測定誤差に近い範囲になっている。 この範囲であれば、上限の消費電力をどの値に設定したとしても、どちらのCPUでも大差ないマルチスレッド性能が出ることが期待できる。

一方で、シングルスレッド性能においてはi9-12900Kが5950Xに対して明確に優位であることが知られているので、全体的に見ればi9-12900Kのほうが同一の消費電力で優位な性能を持つと考えられる。

i9-12900Kは241Wまで伸びるが、5950Xは200Wあたりが限界

Ryzen 9 5950Xは200Wが限界であり、これ以上最大消費電力を大きく設定しても消費電力は伸びず、スコアも上がらない。 これは、5950Xが限界に達する一方で、i9-12900Kは更に多くの電力を消費することが可能であるためである。

しかし、どちらのCPUも上限近くでは50Wの消費電力を追加してもほとんどスコアは伸びていない。 このことを考慮すれば、両CPU共に150Wあたりを上限にしたとしても、十分に性能を維持したまま消費電力と上限から大幅に節約することができる。

i9-12900Kは低消費電力が強い

Ryzen 9 5950Xのグラフを見ると、100Wより消費電力が小さい設定にすると、急速にスコアが低下していくことがわかる。 5950XはPPT設定の下限が71Wであるためそれ以下には設定できないが、グラフから推測できる限りでは50Wあたりではかなりの性能低下があると思われる。

一方、i9-12900Kは50Wで15000ptという高いスコアを維持している。 これは、3900Xの上限の16000pt程度とも近いスコアであり、省電力設定時の性能の高さが示されている。 これにより、PL1=65Wという設定が噂される無印のi9-12900でも十分なマルチスレッド性能と高いワットパフォーマンスの両立が期待できる。 また、より消費電力を抑えたi9-12900Hなどのラインナップも可能であり、USB PDで65Wが供給されることを前提としたハイエンドノートPCなどにも使用可能と思われる。 これは、低消費電力での性能が悪い5950Xでは実現できない領域である。

まとめ

Cinebench R23のMulti Coreのベンチマークで比較すると、Core i9-12900KとRyzen 9 5950Xは90~200Wの範囲でおおよそ同等のマルチスレッド性能を示す。 また、90W未満ではCore i9-12900Kが明確に優位な性能を示す。

以上のことから、Core i9-12900KはRyzen 9 5950Xに対して同等以上のワットパフォーマンスを持つといえる。